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柚餅子(佐久間)―-長持ち風味の自然食
 

 十数年ぶりの“ご対面”だ。硬い外側とは裏腹に、内渦部の歯ざわりはしっとりとチーズのよう。外見が真っ黒なのは、昔と同じ。「初めて見た若い一などはびっくりしますね。でも、これがおいしんです」と近藤與志雄さん。名産店「東農」=佐久間町浦川=の二代目だ。

 ユズの香り高い柚餅子(ゆべし)。北遠の佐久間町には、かつて酢を作るために植えられたユズの木が多く残る。與志雄さんの父・幸二さんが40年近く前、ユズの実を使って、柚餅子作りを思いついた。以来、店の看板商品の一つとして親しまれ続けている。

 柚餅子の材料は、中をくりぬいたユズの皮。作業が始まるのは十一月上旬ごろ。店裏の加工場には町内や隣り水窪町、愛知県から仕入れたユズが集められる。黄色く色づいたユズから甘酸っぱい香りが加工場全体に立ち込める。三河の豆みそに国産のクルミやゴマ、無添加のみりんなどを練り合わせた「特製みそ」を果実分を取り出した中に詰めて蒸す。

 天日と寒風で乾燥させること3カ月。ようやく柚餅子が出来上がる。南信州伝来の保存食で、長く風味が変わらないのが最大の“売り”。今でこそ真空パックになったが、昔は一つ一つ丁寧に紙に包んだという。値段は大と小で違い、一個500900円ほど。

 ユズの香りにみその風味がぴったり。そのまま酒のつまみやお茶漬けになる。かまぼこにはさんだり、青シソに包んで食べたりしてもいけるそうだ。「薄く切って食べる」のが一番のコツという。「一つ一つ手作りの、添加物なしの自然食品」。父から受け継いだ味に與志雄さんがもう一度、胸を張った。

 

(中日新聞 0219日 記事