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干し柿に寄せて

 

 山の産物を商う名にとって、幸せと感ずる一つに心をこめてコツコツ物づくりをしている人たちのお付き合いがあります。その一人に南信濃に薹山芋八さんが居ます。本名ではなく私たち家族が勝手につけた名前です。 

 正月が過ぎて未だ山の雪融けやらぬ頃、ふきの薹を採ってくれます。初夏「山椒が実ったよ」と直径3 ミリ程の青い実をたんねんに木綿銃みで軸を取り除いて届けてくれます。秋、紅葉の頃には山芋そして手製調味料で煮込んだ蜂ノ子の佃煮…で一年が終わります。 

 その薹山さんが初めて干柿を送ってくれました。口上に「私のところでは渋抜きはしていません」という。どういうことかというと、一般に出回っている干柿は渋抜きと称して硫黄燻製の工程がありこれが柿の果肉を軟化させてしまい歯ごたえある旨さを失ってしまっている。一方うちの干柿には柿本来の持つ渋味から甘味への変化が自然なので、あいまいといえばあいまいだけど風味がある、ということだそうだ。 

 山の頂きに近い、小さな田圃に空いた稲ハザを利用して柿が吊される。北風寒太郎が吹き抜ける日々 。折々 野鳥の一群が防鳥網に舌打ちして通り過ぎる。紅葉の山々 が箒状の山となる頃、干柿は仕上る。 

 今春家内を訪ねた薹山さんの家のたたずまいを思い浮かべなから食べてみて「成程」と思った。薹山さんとのお付き合いに一品加えられたので名前もこの際、薹山柿芋八とせんならんナと家内と話し合ったところです。

 

耕雪